トップ > novel > 野鳥の森のほとり辺で 3

野鳥の森のほとり辺で 3

novel

しかしこの日は、カナダ向けに輸出されたメイプルリーフの刻印の入ったカップを一旦手にしながら、その金盛りが傷むのを思いはかって再度棚に戻した。カナダへ旅行した時にトロント郊外の広大なアンティーク倉庫の一隅で見つけたこのティーセットは、全てが揃っていた。時代は百年以上あると思われるのに、飾られていただけだったのか、使用擦れもなく無垢のままだった。奈央子は、戦争や幾多の自然災害をくぐり抜け無傷で尚且つ、フルセットで生き残ったこの食器が愛おしくてしかたなかった。奈央子は、名残惜しげに繊細な金盛りの桜花を指で撫ぜた。キャビネットの扉を開くたびにしてしまう、いわば一種のセレモニーである。
 そういう一連のセレモニーの後、結局イギリス製のアポイントメントチャイナのティーセットを取り出した。このセットも時代のあるものだった。当時アポイントメント出来たのは、貴族だけといわれている。さしづめ日本流にいえば、大名家の持ち物だった品ということになるのであろうか。深緑と臙脂色に彩色されたイギリス製のティーポットに湯を注ぎ、ポットを温めていると地下玄関の扉が開く音がした。一人息子の幸也が学校から帰ってきたのだ。もうそんな時間なのだと奈央子は、あわててオーブンから取り出したケーキを切りわけ、隣室の生徒たちを呼びに行った。
暖炉の前で女たちは、寛いで一頻り話しに花を咲かせた。
まだ新婚だった頃、夫の実家の庭で履き集めた枯れ葉の山に火を放ちながら「火を見るのが好きだ」と浩一が呟いたことがあった。その小さな声に奈央子は驚いた。「火」と言えば「危険」としか認識のない都会育ちの奈央子には、浩一の言葉は理解できなかった。しかしこの家を新築した際に浩一のたっての希望で、居間に暖炉を設置した。本体や煙突の設置費用は思ったより高額だったので、奈央子は躊躇したが、浩一の意見を受け入れたのだった

カテゴリ

  • サポートハウス親の会で予定しているイベント情報です。ご参加をお待ちしています。
  • 心臓病や難病についての情報などを集めました。
  • サポートハウス親の会の活動をご報告いたします。
  • サポートハウス親の会では、様々なサポートをしていただける方々を大募集しています。
  • サポートハウス親の会ではリンクバナーを張っていただける皆様を大募集しています。
  • 現在闘病中の患者さんや、術後の患者さんなどにブログ記事を書いていただいております。
  • ボランティア活動の体験を題材にした代表の書き下ろし小説です。
  • アフリエイト募金にご協力を(資料請求するなら)・・・
  • チャリティ色紙オークションもこちら・・・