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野鳥の森のほとり辺で 5

秋の終わりに刈っておいたレモンバームの葉と紅茶をブレンドしたお茶は、程よい香りと温もりを暖炉を囲んだ六人に与えていた。六人は自然と無口になり、小さな欠伸をする人もいた。
 「落ちつくわね」 「ほんとにのんびりするわ」
暖炉の前では、毎回同じような言葉が少し間延びして繰り返された。そうして生徒たちと寛いでいる居間の横の廊下を黒い学生服姿の幸也が、ゆっくりと通り過ぎて行った。ガラス戸越しに目に入った幸也の足取りは、重くだるそうだった。「幸也、ケーキ食べない」心に広がる不安を抑え、奈央子は努めて明るい声を上げ「皆さんにご挨拶は?」と、ひょうきんな調子で言葉を続けた。
その声に幸也は足を止め、顔だけをゆっくりと皆の方へ振り向けた。そして奈央子に向かって顔を左右に降り、続いて皆に向かって軽く頭を下げた。 生徒たちは、にこやかな顔で幸也に答えたが、内科医をしている山科利江は「幸也君どうしたの」と、怪訝そうに奈央子の顔を見返した。「元気がないの。熱はないんだけれど、食欲もなくて。妙な空咳をしたり、多分風邪が抜けきれないんだと思うんだけど...」 困ったように答える奈央子に向かって 「どれ、私がちょっと診てあげましょう」
そう言いながら山科女医は、テーブルにカップを置いて立ち上がった。
「いいのよ、いいのよ。本当に悪いようだったら、あなたのクリニックへ連れて行くから」
慌てて制する奈央子を無視して、すたすたと歩いて隣接する書斎に入って行った。そんな山科女医の後を「ごめんなさい」と、残された他の生徒たちに言い置いて、奈央子は素早く追った。
書斎の窓際に置かれた机の前の椅子に幸也は、腰掛けていた。山科女医は幸也に「コンニチワ」と、気さくに声を掛け「特別往診よ」と、おどけながら幸也に近づいて行った。 「お母さんが余計な事、言ったんだろ」遅れて部屋に入って来た奈央子の顔を睨みつけるようにして、ぶっきらぼうに幸也が言った。 「まぁー、そう言わず」山科女医は軽く受け流し、慣れた手つきで幸也の額に手をやり、ついでに手首の脈を計った。幸也の手首に指を当て、山科女医はジット俯いていた。その空気が余りにも真剣だったので、返って奈央子は戸惑いを覚えた。
そして「ちゃんと診たほうがいいから、近い内にクリニックへ来なさい。幸也君も早くすっきりしたいでしょ」と、意外な言葉を添えた。
その山科女医の言葉尻を捉えて「分かったわ。幸也、そうしよう」と、不安に駈られて奈央子は、言った。その奈央子の言葉に幸也は頷いた。奈央子は、素直に頷いた幸也の態度にも当惑した。拒否するとばかり思っていたのに素直に肯定するのには、余程身体の具合が悪いのだ。そう思うと奈央子の不安は増大した。 「明日、学校休んで先生の所へ行こうね」幸也の顔を見ながら畳みかけるように言う奈央子の言葉にも、幸也は頷いた。  つづく・・・・

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