原 さちえ
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部屋の空気が緩んできたように感じられた。奈央子は軽い疲労を覚え、それとなく部屋の片隅に視線を這わせた。そこには、コーナー出窓の棚板の上に籠盛りの陶花に添うように、木製のロボットが飾られていた。その高さ三十㎝程の焦げ茶色のロボットの胴体には、丸い時計が嵌め込まれている。奈央子は、その時計の指す針の位置にさりげなく目をやり、視線をそのまま生徒たちの手元に移した。生徒たちの制作の進行状況を確かめながら、奈央子はその日の手仕舞の段取りを考え始めた。
その日は、週一回自宅で開いている陶芸教室の日だった。陶芸といっても奈央子が教えているのは、土から成形するのではなく一度焼成した白磁に絵を描く「上絵つけ」と呼ばれる技法である。有名なマイセン工房の薔薇やニオン焼きの矢車草などの小花を描く技法を指導している。生徒は、今日は五人来ていた。講師依頼のあったカルチャースクールでは、二十人位を一度に教えることもある。しかし自宅での指導は、歓談の場でもありたかったので、五人を限度にしていた。中年の女性が奈央子を入れて六人ともなれば、手より口が盛んな教室でもある。奈央子はのんびりしている方だったし、子どもは男の子ひとりなので、世情には疎くなってしまっていて、もっぱら生徒たちの話しの聞き役に廻ることが多い。一人息子の幸也も中学生になって極端に母親を避けるようになり、夫の浩一の帰宅も遅い日が多くなってきていた。家庭に寂しさを感じていた奈央子にとって生徒たちの口々の語らいは、聞いているだけで気が紛れ、楽しかった。今では、唯一の生き甲斐と言えるほどだった。
週に一度といっても生徒たちにとっては、月に一度なので、週によってそれぞれ集う人たちのタイプは異なる。主婦を中心にしたグループやOL中心のグループ等。そして生徒たちは、様々な理由で入れ代わり立ち代わりした。 続く.....